この度、岩手大学教育学部芸術文化課程造形コース美術選修(通称:芸美)の卒業制作展を開催することとなりました。関係者一同、これまでお世話になった方々には心から感謝いたします。また、本展に足をお運びいただいた皆様にも厚く御礼申し上げます。

 今年度は、東日本大震災の大打撃からの復旧・復興という課題からスタートしました。芸美学生たちにおいても、物資仕分けのボランティアやアートチャリティなどに参加したり、今の自分にできること、また美術表現でできることは何かを自問自答したり、という一年だったと思います。もしかすると、自己表現や作品制作の無意味・無力を感じるような場面もあったかもしれません。さらには激化する就職活動に疲れきってしまうこともあったかもしれません。それでも今ここに、卒業という大きな節目を迎える若者たちの挑戦と努力の結晶を展示できるに至ったことに、私は教員の一人として大きな喜びを感じるとともに、これからの日本を担っていく等身大の彼らの姿を、ぜひ皆様にもご高覧いただきたいと思う次第です。

 かつては、夢や不安をいっぱい抱えて入学してきた彼らですが、大学という学びの場で、また地域の方々と連携しながら、それぞれの立場で切磋琢磨し、今や、頼もしいくらいに成長してくれました。この晴れ舞台にあって、ある者は、そこにやりきった満足感を覚えているかもしれませんし、またある者は自らの未熟さの焦燥感に苛まれているかもしれません。確かに、新たな人生の門出を飾る卒業制作は、現実問題や自分自身と直面しながら試行錯誤した軌跡として、彼らのこれまでの結果を最終的に示すものです。しかし、それと同時に、これから彼らが社会に踏み出すための土台として築かれたものでもあります。つまり、これはスタート地点でもあるわけです。美術教育科代表の私は、無力ではありましたが、この十人十色の可能性に期待し、将来、それぞれが社会で活躍している姿を夢見ています。

 未だ至らないところもあるかと存じますが、どうぞご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。


岩手大学教育学部 美術教育科代表

本村健太


 ものを作るということは厳しいことである。ものを作るということは孤独な作業である。何もないところから、自分の創造と経験で形を作り出さなければならない。本来、自分が一番厳しく自己の制作を考察し、客観的に突き放さなければ意味のあるものは生み出せない作業である。このことが、わかれば大学で美術を専攻した意味がある。

 岩手大学の芸術文化課程造形コースに入学した当時には、そのようなことはあまり感じず、あまり考えなかったことだと思う。四年間の、学生生活の集大成として位置する卒業制作などの研究は、このことを一人一人に強く感じさせたのではないだろうか。  絵画や彫刻、美術教育、金属工芸、窯芸、染織、映像メディア、インダストリアルデザインなどの各研究室において、教員や多くの仲間たちに支えられながらも、最後は一人で立ち向かう大きな壁が、卒業研究である。この壁を乗り越え完成された作品群を多くの方々に見ていただき、言葉をもらい、悔しさを感じ、喜びを心に刻み一回り成長して大学の美術の巣から飛び立ってもらいたい。そして、過ぎてしまったこの充実した時の流れを、もう一度ゆっくり噛みしめてもらいたいということが、私の切なる願いである。

 卒業制作展を、見にいらした多くの方々に少しでも、刺激と感銘を与えられる作品が、どれだけ並ぶだろうか。子供の成長を願うように、君たち学生の成長を願う。  様々な分野の選考に、頭を悩ませた1,2年次から専門の分野に腰を据え取り組むことにした3年次。あっという間の四年間、六年間であったと思う。これからの、人生はその何倍にもなるが、受動的、能動的に作業や知識がどんどん入って来た大学生活。卒業制作をスタートラインに、世の中に出ると思いだす充実した制作三昧だけの日々はもう訪れることはないかもしれないが、忘れてほしくないことは、美しいものを常に取り入れるアンテナを張りめぐらすこと。担任を担当して感じたことは、各分野に同じ位の人数で散らばったバランスのよい学年であったこと。様々な専門分野の友達がいることは、今後も大きな力となる。卒業制作という一つの区切りの目標に、一丸となり突き進んでいったことで、より一層の団結力が生まれたことと思う。仲の良い纏まった学友は、一生の宝物である。

 さあ、これからは卒業するみんながもの作りのライバルとなる。私も負けずにものを作り続けたい。


岩手大学教育学部芸術文化課程

教授 阿部裕之


“ 宇宙は絶えずわれらによって変化する
誰が誰よりどうだとか
誰の仕事がどうしたとか
そんなことを言っているひまがあるか ”
(宮沢賢治「生徒諸君に寄せる」より)

 新しいスケッチブックを使うとき、片隅に必ず書いている言葉です。岩手に来なければこの言葉に出会うこともなかったかもしれません。人の仕事が気になってしまう自分の甘さや未熟さに歯がゆさを感じながらも、それぞれが伝えるべきこと、表現すべきことを見つけ、かたちにするために共に切磋琢磨しあい、制作に励んできました。岩手県民会館の展示室に並ぶ作品には、私たち卒業生が4年間積み重ねてきたものが詰まっています。

 岩手大学教育学部芸術文化課程造形コース美術選修に所属する私たちは、8ある研究室に分かれ、卒業生23名がそれぞれの分野の中でさまざまな媒体や素材、技法を選び、制作してきました。23のカラーを持った私たちに共通しているのは、平成という時代に生まれ、縁あって岩手という土地に集まり、卒業制作展というひとつのかたちを作り上げるということ。ポスターのデザインにはそんな意味も込められています。

 とにかく膨大な情報やモノが溢れ、信じられない出来事が絶えない世の中。めまぐるしい変化の波の中で、私たちは何を選択し、考え、表現し、残していくべきなのでしょう。ただ誰かに見つけてもらうのを待ってつぶやいているだけでは何も変わらないと思います。全てを決めるのは自分自身であり、自分の感性を信じ、突き進んでいいのだと宮沢賢治が激励してくれているように、この卒業制作展を通過点に、自分を信じてそれぞれが目指す次の点へ進んで行かなければなりません。

 卒業制作展までのこの一年間は特に充実していました。朝、研究室に行くと制作途中の作品が昨日手をつけたところまで、そのままの状態で確かに残っているという当たり前のことが私の全てでした。ただただ手を動かし、作ることだけを考えていられる時間は本当に貴重なものでした。そうした至福の時間を過ごし、この日を迎えることができたのは、指導してくださった先生方をはじめ、先輩方や後輩の皆さん、支えてくださった多くの方々のおかげです。心より感謝しております。そして会場までお越しくださった皆様にも深く感謝申し上げます。


卒業制作展代表

澤谷由子